治療教育という道 その七
「ごっこ遊び」と子どもの意志の働き
前回、小野寺隆所長よりご指摘のあった上記の件について、少しく言及しよう
先ず、言語藝術を人類意識の発展史の流れで見ていくと、神話・伝説の系譜として「叙事詩」が生まれ、そこから儀礼として観客としての民草の心に訴えて浄化する「演劇」(その多くは舞踊劇の形式であった)へと発展、そして未来への想いを綴る「抒情詩」に結晶する
上記三分野に対応する人間の意識活動は以下の通り
叙事詩➖思考(表象)
抒情詩➖感情(情緒)
演劇➖意志(行為への衝動)
そしてこれらは子どもの創造性を通して次のように働く
叙事詩➖思考(表象)➖昔話(物語・童話)
抒情詩➖感情(情緒)➖わらべうた
演劇➖意志(行為への衝動)➖ごっこ遊び
即ちこの経緯を遡ってみるなら、昔話を毎夜母から聴くことによって子どもの心に想像的思考(即ち表象)が育ち、わらべうたを日々母と歌いながら子どもの感情は豊かに育まれ、そしてごっこ遊びを楽しむ子どもは自らの身体を様々な場面に即して動かそうと努めることで自ずと意志の働きを強めるのである
ところで自閉症児の中にあまり同年代の児童と遊ばず、所謂「ひとり遊び」しかしないことを憂いた母親が、無理に友だちと遊ばせようとしたり、そのようなトレーニングをするグループに参加させることがある
またそれとはまるで正反対に、「ひとり遊び」ができず、絶えずその子の相手をしなければならないことを苦痛に感じ、ネットやゲームに子守りをさせてしまう場合もある
これらは何れも、その子に相応しい意志の発達を妨げてしまう
本稿では、「意志」に限って扱っているが、実際には「思考」も「感情」も含めて、人間の心の諸活動は伝統的な藝術による無理なく自然な成長が望ましい
このことに関しては「自閉症」或いは「特別な保護を必要とする子どもたち」だからといって例外ではない
歴史の風雪に耐えて生き延びてきた伝統藝術というものは、凡ゆる子どもの凡ゆる状況・状態にその「美」と「真実」の力を発揮するのだ
レントゲン室は伝統的ではないのでは?
というご質問には、こうお答えしよう
上記の文章
伝統藝術というものは、凡ゆる子どもの凡ゆる状況・状態にその「美」と「真実」の力を発揮する
に即して言うなら
「ごっこ遊び」は
「病院休日にお医者さんとレントゲン室」
という状況に
「美」と「真実」の力を発揮する
のである
二○二二年十二月二十五日 中国厦門
屋我地診療所治療教育外来代表
川手鷹彦
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