治療教育という道 その五

投稿日:2022年12月01日(木)

以下は、私たちが長年に亘って関わっている、自閉症男児についての報告文書より、公開可能な部分を抜粋修正したものである
ケーススタディ/事例研究のひとつとしてこの場に取り上げることとした

☆ ☆ ☆

男児Aについて
(現在15歳、中学3年生)

先ず、「自閉症」について、発達障害という言葉がよく使われるが、「自閉症」は障害ではなく、遺伝子の突然変異による人類進化の多様な過程の表現形を、ひとつにまとめたものであるので、
《不定形発達》
と呼ぶのが正確である
「障害」という呼称は、自閉症者本人にとって自己否定につながるので、くれぐれも注意が喚起される

Aには幼少時、非常に強い所謂「こだわり行動」があったが、徐々に収まり、安定した状態になった
更に現在では、特別支援学校の寄宿舎での集団生活をするという、見違える成長ぶりを示している

これは、先ず本人の努力と、次に母親と家族の献身、加えて福祉相談員、特別支援学校教師、児童デイサービス教師、そして当治療教育外来スタッフ等、関係者の理解と尽力によるものである

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【『郵便受け母子』2019年11歳(小5)の時の作品】

「自閉症」は現在日本の医療機関では、「自閉症スペクトラム」という名称が使われている
「スペクトラム」とは連続体という意味で、現段階で130〜200とされる異なる変異遺伝子の内、二つ以上の変異が生じて発症するもの全てを抱合する
故に、巷でよく言われる「グレーゾーン」というものは存在しない
「自閉症」は、「自閉症」であるか、ないか、のどちらかである
ところでAの場合、これら多数の遺伝子の何れが変異したのかを特定することは、現在の医学・脳科学にはできない
そこで、診断等の重要な情報については、現場専門家の経験・見識に頼らざるを得ない状況である

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【習字『お正月』12歳(小6)の時の作品】

冒頭に記した「人類進化の表現形」ということに関して、よく受ける質問は、「進化の形」であるのに、何故生活上、様々な問題が生じ、手厚い保護や支援が必要になるのか、という、至極もっともな疑問である
これは、子どもの頃の繊細で純粋な感覚を守るため、知的な発達、即ち特定の神経系の通常発達を部分的に抑える必要が生じ、この抑止力がしばしば現象面では、行動面等での異常となって表出するからである
治療教育は、この異常を無くすことはできないが、出来得る限りの調整はする
それに最も相応しいものは、美しい響きによる詩歌や物語、音楽である
これは情緒的な表現としてではなく、上述した神経系、特に迷走神経(頭脳と五体の橋渡し役)に直接働きかけ、不調を整えていく

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【『猫も気になる椅子』2021年3月13歳(中1)の時の作品】

一方、上述の異常・不調のバランスを取るように他の神経組織に驚くべき発達が起こる
音楽、絵画、詩歌演劇、記憶力、集中力、周囲を和ませる力、自己防衛、等々、千差万別の異能である
治療教育は、未だそれらの能力が表現されていない場合は始動させ(遺伝子情報の転写・翻訳)、既にある程度表現されている場合は認知し、更なる藝術行為により励まして、本人にとっての生きる自信となるように支援する
この
「藝術によって長所に光を当てる」
ことこそが、私たち治療教育者の本分と言っていいであろう

とは言え、突然変異によって生じた異常・不調は無くなること、治ることはない、その現実から目を逸らさないことも極めて重要である
それは自閉症者が一生付き合わねばならないものであるのだから…
それ故、治療教育に携わる者は、自閉症者の生涯に関わることになるのだ

某年某月
筆者

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【『眩しい!太陽と魚座の母さんを木陰から見る』2021年14歳(中2)の時の作品】

☆ ☆ ☆

上記の報告文書(抜粋修正版)の公開については、本人の母、並びに、当治療教育外来スタッフの同意を得ている
尚、本文書の性格上、二次使用ができないのことを、読者にはご了承願う

二〇二二年十二月一日 中国厦門
屋我地診療所治療教育外来代表
川手鷹彦

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【『バブルアート/BUBBLE ART/泡の藝術』2021年14歳(中2)の時の作品】

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