治療教育という道 その四
「自閉症」の本質
〜全ての自閉症児に共通する特徴は…
イギリスの児童精神科医ローナ・ウィング/ Lorna Wing(1928-2014、実娘が自閉症、自閉症研究に優れ、1981年の論文『アスペルガー症候群:臨床報告/Asperger’s Syndrome: a Clinical Account』はハンス・アスペルガーの研究・業績を広く知らしめ、医療術語「アスペルガー症候群」を発案した)が提示したものを基にして、自閉症スペクトラムの子どもらは、下記のような類型に分けられる。(類型名はローナ・ウィング他、説明文は筆者)
■孤立型
- 自分の感覚が好むことに没頭し、他者と関わろうとしない
■受動型
- 自分からは他者への関わりをすることは稀で、他者からの接触には応えようとする
- 上述の努力によって著しく心身が疲労する
- この疲労がストレスとして蓄積された結果、他者への態度が威圧的・攻撃的・尊大型になる場合がある。
■積極奇異型
- 誰にでも人懐こく接する
- 愛情深く、また周囲の寵愛を受け易い
- 近距離で接し、大声で話すことから、攻撃的と誤解されることがある
- 自分の希望通りにならないことは受け入れ難い
- 忍耐力に欠ける、つまり我慢することで、却って望ましい結果が訪れることは、理解できない
■形式的大袈裟型
- 誰にでも敬語で話し、その特殊な言い回しから、周囲の子どもに「博士」や「教授」と渾名付けられる
既に触れたがハンス・アスペルガーも彼らを「小さな教授/ Kleiner Professor」と呼んだ
- 概して知的に優れ、会話の相手の言い回しや発音の誤りを指摘せずにいられない
「おはようございます、って云いますが、もう10時半ですよ」
「Good morninngって、今日はいい朝ですかねぇ?」
- 通常の論理でない考え方をする。それが、科学的・学術的な発見につながることすらある
また、自閉症の診断基準として、上述のローナ・ウィングは以下の、所謂「三つ組の障害」を挙げている
- 対人関係の形成・適応が難しい「社会性の障害」
- 言語活動の機能や語用に遅れがある「言語コミュニケーションの障害」
- 想像力や柔軟性が乏しく、変化を嫌う「想像力の障害」と常同行動や反復性のある〈こだわり〉行動
上記は何れも類型の内、孤立型と受動型には当てはまるが、形式的大袈裟型と積極奇異型には必ずしもぴたりとは重ならない
何故このような不整合が生ずるのか
そこには遺伝子変異の多様性が関わっている
自閉症を発症する変異遺伝子は、今のところ130〜200あると言われており、且つ、二つ以上の遺伝子に変異が起きなければ、発症しない、とされている
この変異には二つの側面があり
ひとつは五感の繊細さ純粋さを保つために生ずる、特定領域に於ける知的発達の停滞・原則であり
もうひとつは、上記の不具合にバランスを取るように顕われる数々の驚くべき異能である
診断基準は、医療行為の傾向としてどうしても弱点、短所面を強調する
しかし分類という行為は、全体を俯瞰する必要があり、それ故に短所だけではなく、長所も考慮に入れることとなる
そのためこのような不整合が生じるのである
それでは、「自閉症」の持つ長所とは何か?
全ての「自閉症」に共通する、長所としての「特徴」「要因」はあるのか?
ローナ・ウィングの紹介したハンス・アスペルガー(1906-1980)、そしてそのほぼ同時期に「自閉症」を発見・報告したレオ・カナー(1894-1981)、近代「自閉症」研究の二大元祖とされる両者に共通した、「自閉症」の特徴は
《聡明》或いは《知恵深さ》
である
カナーは自閉症児たちの特徴として
聡明な顔立ち
優れた記憶力
を挙げ
アスペルガーは、自閉症児たちが、特定の分野について優れた能力を持つことに気づき、成長後その領域で際立った発展をすることを予見した
即ち、内面の《聡明さ》《知恵深さ》に気づいていたのである
更に進んで、自閉症児たちとの経験を積んだ者は、彼らの《聡明さ》《知恵深さ》に対する
《敬意》
を持つようになる
そしてこの《敬意》を感ずることが自閉症診断の決め手となることが多い
この感覚は、精神科で使う専門用語で、統合失調症患者を目の前にしたときに経験豊富な診断者側に生じる独特の直観「プレコックス感(言い知れないある種の違和感、一種言いようのない特有な雰囲気)」に似ている
このような直観、自閉症児への《敬意》については、変異遺伝子の研究や、現場での地道な観察が進むことによって、明らかになることが望まれるが、そのためには、それぞれの枠を越えて交流・意見交換がされ、ひとりひとりの自閉症児に多様な関わりの持たれることが必須であると思われる
二〇二二年十一月二十日 中国厦門
屋我地診療所治療教育外来代表
川手鷹彦
- << 《花の家》事務局からのご連絡
- 治療教育という道 その五 >>